みなさま 田中かつゑです。長毛の仔はブラッシングを怠ると、毛玉があちこちに出来るので、抱っこするとゴワゴワが分かります。そのため見つけ次第、慎重に毛玉をハサミで切ることにしています。なんかね、虎刈りってこういう事を言うのね、って実感します。
昔、社内で「学者さん」のニックネームで呼ばれていた方から極めて彼らしい一言を聞いたことがあります。それは、「技術者は自分より技術が勝った人にしかリスペクト(尊重)しない」というもの。彼は普段とても温厚で喜怒哀楽を表に出さない人なのですが、そんな方でもこのような断言をするんだ、と彼の信念を聞いたような気がしたことを覚えています。
この言葉、正しい。見事に正しいと思います。但し部下からすれば。自分が技術で行き詰った時、解らない時、次の技術を模索している時など、上司に当たる人から明確な技術アドバイス・指針・方向性が与えられれば、それば嬉しいでしょう。そしてそんな「付いていきたくなる」上司に憧れ尊敬するのは、とてもわかります。しかしですね…片や上司の立場になったら、自分の下にわんさといる部下それぞれに対して技術で優位性を保つことは、至難の業であることは想像に難くないと思うのですが…。
例えば上司を農園の経営者と位置付けてみましょう。部下は各々の野菜栽培担当者とします。きゅうり・ナス・トマトの3種類をその農園で栽培していると設定します。経営者は当然きゅうり・ナス・トマトの栽培行為そのものが出来、各野菜担当が未経験である台風などの自然災害に対応するスキルも経験値として持っているため、野菜担当者たちは彼によく相談したり、指導を受けていたりしました。絵に描いたような上司と部下の信頼関係が築けていますね。月日は流れていきます。商圏拡大のため、その農園はピーマンの栽培も手掛けることにし、ピーマンの栽培経験がある若人を新たに採用。彼に作業を一任します。ところが彼は経験値が乏しく、肥料やりのタイミング、量がうろ覚えだったため、経営者に教えてもらおうと質問をします。ところが経営者はピーマンの栽培は未経験。さあ、困りました。どうしましょうか。
ピーマン担当に対する経営者の回答は以下の3パターンになると思われます。
- 「ごめんね。自分はピーマンを栽培した事が無いのでわからない。自分で調べてくれるかな?」
- 「ピーマンは経験ないけど、同じナス科だからナスの場合を参考に伝えるね。その予備知識を元に詳細は調べてくれるかな?」
- 「一般的に夏野菜に関してはxxxxxの方法が良いとされているんだ。ただピーマンは特殊事情があるかもしれないので詳細は調べてくれるかな?」
そして私だったら迷わず3の返答をします。理由は以下の2つです。
- 自分の経験値・勉強から導き出される予測や可能性を部下に伝えることで、夏野菜全般に対するスキルの根本的な部分を伝授できる
(2の回答はナス固有のものであって、ピーマンに適するかを部下が判断できない) - 「No」ではなく「Yes, but」の回答をすることで部下の質問を受け止め、答えに近しい情報を与える(1の回答をしたら、その後ピーマン担当の部下は経営者に何も質問・相談をしないでしょう)
技術者は自分に勝る技術者にリスペクトする、は本当だと思います。ただ、自分が保持している技術よりも(その分野に対して)勝る技術者にのみ、というのは少々疑問を持ちます。技術そのものは常に進化し、新しいそれも誕生していきます。既知の技術も手法・方式そのものが変化しています(きゅうり・ナス・トマトも私が子供だった頃より味・形状・栄養素がずいぶん変わりました)。ただ、その技術の根幹に当たる部分をしっかりと身に付けていれば、応用が利くことは沢山あり、予測の精度も上がっていきます。技術者のみなさまは、それがどんな種類の技術であっても、その内面を理解して欲しいと思います。そして後輩たちには表面の技だけでなく、何故その技術が必要なのか、何を狙った技術なのか等の根っこの部分も伝授してくださることを期待します。
本や動画では伝えきれない「何故」を教えてくれる上司こそ部下にリスペクトされる尊い方だと私は思います。