役員メッセージ 仕事に関すること

かつ便りNo.150 ~交渉資料を作るとき~

 

 みなさま 田中かつゑです。ニャンコの中には非常に手先の器用な仔がいます。我が家のドアは引き戸が多いのですが、ちょっとでもドアの隙間が空いていると、そこにグイッと手を突っ込み開けてしまう仔がいるのです。そのため引き戸には強力な磁石を設置し、猫の力では開けられないようにしています。大工さんに「『力が必要ないように引き戸を軽くして』という要望は良く聞くけど、『滅多に開けられないように重くして』とお願いされたのは初めてですね。」と言われました。そうでしょうね…。

 相手方に相談・要望・条件闘争等をする時、より良いクロージングを目指して資料を作る事は多いとは思います。今回はそんなときのポイントと、書くべきこと・書かざるべきことを纏めてみます。
気をつけることはたった3点。資料を作成するときに、作り方が分からない・どうしたら良いのか迷う、等のお悩みがある方はご参考になれば幸いです。

1.資料を読むのは相手方であるという事実を心に刻みましょう

 解ってます!と言われそうですが、あまたの資料をレビューしてきた立場から言わせて頂くと、「自分のため」に書いちゃっている人がかなりいらっしゃいます。こんな例を挙げるとお分かり頂けるでしょうか。

例)あなたが気になっている方と初めて二人でお話しできる機会があったとします。あなたはサッカーが好きなので、その魅力を相手の方にもお伝えして、同じ話題で盛り上がり心の距離を詰めたいと思っています。そこで、細やかにサッカーの事をご紹介した所、お相手も相槌を打ちながら聞いてくれている様子です。そこで、思い切ってサッカー観戦をご提案した所…やんわりとお断りされてしまいました。それだけに留まらず、次にお会いする約束さえも日程が決まりません。どうしてしまったのでしょうか。
⇒お相手はサッカーに関することにご興味があるかどうか、確認はしましたでしょうか。また相槌を打つだけでなく、お相手は同じサッカーの話題をご自分から提供してお互いに会話のキャッチボールが出来ていましたでしょうか。自分語りはお相手にとって苦痛である場合もあります。お相手に興味がある話題を選べられると良いですね。

 資料つくりも同じロジックが成り立ちます。お相手が読む気になる、つまりお相手に興味があること、知りたい事、困っている事の解決策等、相手側にとって読むメリットを提示することが大事です。 

2.資料に書かれていることが実現された場合の相手方のメリットを明確にしましょう

 損得で物事を見た場合、人は損を極端に嫌がる傾向にあるとのことです。また得に関してもまゆつばの匂いを感じ取ると、途端に警戒心が強くなるとか。良いwin-winの提案が不可欠ですね。

例)気になる人とのランチデートが実現できたとします。楽しい会話も弾み、いざお会計。こんな時、もしあなたがそのお相手と次もお会いしたいと強く思ったとしたら、こんなお誘いの仕方はいかがでしょうか。
①ランチの会計をお相手が気づく前に二人分済ませてしまう。
②お相手が感謝、あるいは恐縮の挨拶をしてきたら、「じぁ、このお礼は美味しいコーヒーをごちそうしてくれると嬉しいな。mm月dd日は空いていますか?」 
③この場合のお互いのメリットはあなた=次にお会いできる口実が整う。お相手=ランチをごちそうになる。(あなたの事が気に入ったとしたら)もう一度あなたと会える、しかも次のコーヒー代をお相手が負担することで、心の重荷が消える。と、なります。

 ご相談・ご提案・お願い等の題名で書かれた資料では、相手方は何を要求されるのか、それは自分たちにとって良いことなのか悪い事なのかを神経質に探ろうとします。そのため、相手方、こちら側双方のメリットと少々の譲歩が妥協できる範囲で提示されていると、交渉はスムーズに進む可能性が高いです。

3.押しつけに解釈される語尾は使わないようにしましょう

 「~していただきたい」「善処願います」「お願いします」「~してください」等など、相手方の着地点をこちらで指定すると押しつけと捉えられることが往々にしてあります。こんな場合に便利なのが「体言止め」。
「~をご相談」「~お互いに善処」「~を実現」等、ちょっとずるい書き方ですが、「誰が何をする」を体言止めでぼかし押しつけの印象をはぐらかせます。実際の条件闘争は口頭にて行います。

例)前記からの例をそのまま活用すると、対面で人に何かをお願いする時には体言止めは使えないですね…そのため柔らかい語尾を選択するようにします。
「~だったら嬉しい」「もし良かったら~しませんか」「ご迷惑でなければ」等など。お相手との距離感を図りつつ、押しつけにならない言い方のストックを何種類か持つと良いかもしれません。

 非常に簡単に書くと「読む相手の立場に立って資料を作りましょう」になります。どのようなロジックで進めるのが良いのか、相手方はどこまで譲歩の可能性があるのか、相手方が望んでいる事は何か。これら全て相手方をしっかり観察し、予測を立てないと難しいことになります。ご自身の様々な理由はさておき、交渉事が成立するためには、お相手を良く知ることが一番大事だと長年交渉に携わってきた私は痛感しています。