役員メッセージ 家族、友人、周りの方々との関係

かつ便りNo.198 ~同じものでも違う~

 

 みなさま 田中かつゑです。顎の癌と気丈に戦っているるいちゃん。スティック状のオヤツさえ食べなくなったのですが、ふと離乳時の仔猫用のご飯を買い与えてみたら、食べました!この病気は予後が悪く、彼女に残された時間は少ないと思いますが、今生きている彼女が少しでも心地良く過ごせますように。

 先日、ある飲み物の品評会なるものに参加をしてきました。日本全国から応募があった数百点の飲み物をプロの目利きが採点して順位を決めた後、一般参加者がそれらを飲み比べ、好き嫌いを本人の感性でつけるという採点方式の会でした。対象の飲み物は20点。その飲み物に一番ふさわしい温度で淹れられた後、私たち素人15名が一番好きなものを推すという形式です。

 この形式の品評はお米でも参加したことがあります。主催者から送られてきた5種類のお米を自宅で炊き、順位を付けるというものでした。前述の飲みものとお米の両方で共通している事は「添え物(お菓子やおかずなど)を合わせることなく、純粋にその対象物に対して順位を付けること」でした。まっとうなルールだと思います。

 持ち時間は90分。係の方が運んでくださる飲み物を受け取り、色を愛で、香りを嗅ぎ、口の中で味わい、喉越しを堪能し、余韻を楽しみます。感想と、好きな点・苦手な点、どんなシーンで飲みたいか、など、見たこともない生産者の方に向けたメッセージをしたためます。合間合間は次の飲み物と混じらないように口の中を水で清めます。それを20回繰り返します。さすが厳しい審査を潜り抜けたこれら。深い味わいと旨味、名残惜しく口に残る微かな渋み、強弱はあれ鼻腔をくすぐる良い香りや美しい色は、どれも共通しています。甲乙つけ難く、新しい飲み物が運ばれるたびに「前回と比べ好きかどうか」を自問自答しながら臨みます。飲み物でこんなに真剣に自分の感覚を研ぎ澄ましたのは多分初めてです。

 ただ、杯を重ねる毎にむくむくと疑問が湧いてきました。お米の品評時にも感じた
「それ単体での味の評価は、果たして現実にその飲み物を頂くシーンと合っているのだろうか。」
普段の生活を振り返ってみると、私が飲み物だけをを単独で頂くのは、
”喉が渇いた時にがぶ飲みできる水・麦茶・冷やしたほうじ茶“
”仕事を開始する時に気合入れのためのコーヒー“
”夜のひとときを彩る?ビール“
の3パターンのみです。

 また、例えばコーヒーも気分転換で飲むときにはちょっと甘いものを一緒に摘まみますし、同じアルコールでもワインや日本酒を頂く時は少量の味が濃い目のあてが欲しかったりします。実際、品評会でも「10番のお飲み物です」の声と同時に運ばれてきたそれを味わう頃には「何か甘い固形物が食べたい…」と心底思いました。同じテーブルで参加なさっていた方々も私と同じ感想をお持ちの様で、「お菓子が欲しいわね。」「飲み物だけで順位をつけても、お菓子との組み合わせで味わいが変わるのよね。」としきり。主催者側も心得たもので「そろそろお口直しに甘いものが食べたくなる頃なのですが、この品評会では食べ物はお出しできません。理由は簡単で食べ物を口にした直後の飲み物は格別に美味しく感じられる様で、採点に狂いが生じるのですよ。」やっぱりそうなんですね。飲み物とそれに合う食べ物は、味のマリアージュともいえるのでしょう。納得です。

 ようやく品評会が終了し、閉会のご挨拶と共に解散となりました。参加されたみなさまの殆どの方々がどうやら食べ物屋さんに直行したご様子です。私もご多分に漏れず何か食べるものを…と物色です。けれど、お腹は飲み物で一杯(500mlほどのカフェイン飲料を飲んだ計算です)なので、ご飯物はちょっと食べられません。では甘いものと思うのですが、甘いものを食べたら必然で飲み物が欲しくなり…と逡巡。結局無塩ナッツを少々つまみ、次の食事まで耐えました。

 私たち素人の単なる「好き・嫌い」がその飲み物の評価にどのように貢献するのか、改めて品評会を振り返ります。この会は私が参加した市の他、同内容のものが全国5か所で開催され、全てが終了した時点で結果が発表されると聞きました。私が推したその一杯が上位に入ってくれると嬉しいな、と素直に思います。同時に私たち素人の票が集まったその飲み物はきっと、一般受けがするお味なのだろうな、とも想像します。

 そしてまた思うのは、これはお米の品評の時にも強く感じたのですが、やはり食べ物・飲み物は単品もそうですが、組み合わせにより「おいしい」、が無数に生まれるのではないか、ということです。

 お米の場合を例に取ります。品評対象のお米はどれも形・艶・色が美しく、口に含むと甘さが際立っていました。一口目はとても美味しく頂けます。けれど一膳をおかずなしに食べていると、徐々に甘さがくどく感じてきます。しょっぱい物が食べたい!と身体が要求してきます。5種類のお米を全て頂いた後、私が第一位に推したのは、出汁の味と合うお米でした。そしてそのお米は、甘さは控えめで、おかずと組み合わせた時に「食事」として美味しく頂けるであろうと判断したのです。

 同じ食べ物・飲み物でも、単体で頂いたときと、何かと組み合わせて頂くのでは美味しさが変わってきます。単体としては完璧な味わいでも、一緒に頂く何かがその美味しさを台無しにしてしまうこともあるかもしれません。何か人付き合いに似ている感じもしますね。