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かつ便りNo.199 ~魔改造~

 みなさま 田中かつゑです。顎の癌と気丈に戦っているるいちゃん。今はもう食べることが出来なくなりました。体重も元気なころの半分以下に。動くこともままならないのですが、健気にトイレにはヨロヨロと向かいます。水飲み場でほんの少し、やっとの思いでお水を飲んだ後は、またベッドへ。食べられなくなって今日で10日目。彼女の体力には舌を巻きます。私は彼女の旅立ちを見送ってあげられるのでしょうか…。

 インバウンドの記事を色々な場所で見かけます。食べ物・慣習・設備などさまざまな視点で海外の方が自国との違いをご紹介下さるのですが、それらを読んでいて気がついたことが一つあります。それは、「海外の方々が驚く対象を作った方々は、物事に対して【こうせねばならぬ】という考えがなく、Try and Errorを繰り返しながら地道な努力と発想を繰り返しながら成長し、完成度を高める性質が備わっているのではないか 」ということです。

 横浜にホテルニューグランドという老舗のホテルがあります。訪れた人々を魅了する格式高く、それでいて細やかな心遣いで、私たちが緊張することなく伸び伸びと過ごさせて下さるホテルです。そして、そこでは海外のお客様向けに開発した、皆さまも良くご存じのそのホテル発祥である料理が3点あるのです。それはみんな大好きシーフードドリア、スパゲッティナポリタン、そしてプリンアラモード。以下ホテルニューグランドのwebサイトからスパゲッティナポリタンの記事を一部抜粋加筆修正して記載します。

・スパゲッティ ナポリタン
第二次世界大戦終戦後、米軍による占領が開始され、1945年から1952年までの間、ホテルニューグランドはGHQ将校の宿舎として接収されました。彼らの持ち込んだ軍用保存食の中にスパゲッティとトマトケチャップがあり、米兵たちは茹でたスパゲッティに塩・胡椒で味付けをし、トマトケチャップで和えた物をよく食べていたそうです。

接収解除後、2代目総料理長入江茂忠は「ホテルで提供するに相応しいスパゲッティ料理を作ろう」と、苦心の改良を重ねました。新たなメニューとして、トマト本来の味わいを生かしたホテルならではの料理を提供しようと、ニンニクと玉葱の微塵切りを飴色になるまでよく炒め、生のトマト、水煮のトマト、トマトペーストを加え、ローリエとオリーブオイルを入れてソースを作り、スパゲッティと合わせ、この料理を「スパゲッティ ナポリタン」としてお客様へお出ししました。(ちなみにトマトで味付けした料理は、元々フランス料理で「ナポリ風」と付けるのが一般的だったそうです)

 「茹でたスパゲッティに塩・胡椒で味付けをし、トマトケチャップで和えた」を「ニンニクと玉葱の微塵切りを飴色になるまでよく炒め、生のトマト、水煮のトマト、トマトペーストを加え、ローリエとオリーブオイルを入れてソースを作り、スパゲッティと合わせ」まで昇華させてしまったシェフ。まるで別物ですね。

 食べ物で言えば、おなじみのアンパン。これも海外の方々には仰天ものと聞きました。豆を甘く煮るというだけでも嫌悪なのに、さらにそれをパンの中に入れてしまうとは…だそうです。実際知り合いのサンフランシスコ在住の男性は、「クレイジーだ!」と最初は叫んでおりました。15年以上前のお話です。けれどですね、現在彼は、日本に出張する度に空のスーツケースを持ち込み、出張最終日に菓子パンのアンテナショップ等に赴き、アンパンを始めとしたさまざまなフィリングがサンドされた日本のパンを詰めれるだけスーツケースに詰めて帰国するそうです(お買い物に付き合わされました…)。彼のお子様方は煮た甘い豆が大好きだとか。

 食べ物の世界に限らず、凝り性である方々の探求心と創意工夫、失敗を恐れない挑戦は本当にすごいと思います。巷で有名な魔改造は、おもちゃ、フィギュア、家電などに過剰な改造を施すことでしょうか。検索すると、それはもう沢山の画像が見つかります。感心を通り越して、呆れるほどです。そして、よく彼らの作品を見ていると…必ずソフトウエアの力が寄与している事にも驚きます。コードを書くということは、もはや限られた技術者のみならず、(生産性や完成度、品質、性能を考慮しなければ)勉強如何で多くの人が表現できるツールになったのでしょう。それはそれで喜ばしい事です。

 そういえば、昔々ソフトウエアの開発の合間に、同僚が製品の仕様を逸脱して、色々な悪戯を仕掛けていたことを思い出しました。今から思うと魔改造ですね。忙しい間を縫って残業時間等にコツコツと作っていたのでしょう。彼から私たちチームメンバに「面白い物を作ったのでお披露目したい」とお誘いが入りました。なんだか分からないまま、私たちがそのお披露目会とやらに参加すると、デモを始めます。

 (このお話しは前提条件を書かないと皆さまにはご理解が難しいので説明させてください。今から30年以上前、まだまだPCがコモディティ化する前はコンピュータとワードプロセッサ(ワープロ)の世界は分かれておりました。そのため、ワープロで書いた日本語文書はコンピュータで扱えなかったのです。)

 彼がデモをした内容は①ワープロで文書を作る、②それをコンピュータ側に転送する、③ワープロ用ソフトが無いコンピュータで転送された文書が表示できる。といったものでした。内部処理は複雑なので省きますが、私たち観客はその努力と根性に惜しみない拍手を送ったのです。

 よく、技術者は怠けるために苦労を厭わない、と言われます。便利・簡単・嬉しいを面白がって実現させるために頑張っちゃう技術者。カッコイイと思います。魔改造、の「魔」は「磨」かもしれません。

※日本で私たちがふつーに食べている、海外の方々からするといわゆる「魔改造」なるものをもっとお知りになりたい方は「日本食 魔改造」などのキーワードで検索するとうじゃうじゃ出てきます・・・