役員メッセージ

かつ便りNo.89 ~遠い国から来た友人~

 

 みなさま 田中かつゑです。出かけるときは毎回ニャンコ点呼をするのですが、1匹足りない!必死に探したら、そのグレーニャンコはお座布団の上で保護色となっておりました。こんな時に限って名前を呼んでもご返事しないのは何故?

 先日、日本での生活が故郷よりも長い友人が天に召されました。告別式は彼の信仰を尊重する形で執り行われたため、とても和やかな空気に包まれたものでした。その彼との生前の思い出をいくつかご紹介していきます。価値観も文化も異なる環境の中、自組織の部下のみならず、取引先やご近所さんにまで信頼が厚かった彼がどんなお人柄であったかを記すことで、海外でのビジネスに挑戦したいと思う方に、幾ばくかの参考になればと思います。

 実は彼は第二外国語として英語は堪能ですが、日本語は片言くらいの語彙力でした。そのため当然英語での会話でお仕事を進めるわけですが、日本人の中には英語が不得手な方も多くいらっしゃいます。そのため、通訳を介したお仕事になる事も多く発生しましたが、彼は必ず自分が理解したこと、課題と思っている事、今後の展開案をメモ帳にしたため、日本語が堪能な部下と齟齬が無いかを確認しあい、共有の上ご自身の理解を深めて行ったそうです。特に彼の故郷と日本では仕事の進め方が異なったため、日本でのビジネスルールを理解する努力、相手方と円滑に仕事を進めるための気遣いは舌を巻くほどでした。

 彼は決して自分の価値観を押し付けませんでした。おそらく日本人の根回し、即決しない所、はっきりと自身の考えを述べないやり取りには非常にご苦労なさったことと思われます。けれど、いつでもニコニコとしながら辛抱強く相手方のキーマンを探し出し、辛抱強く着実に仕事を進めていらっしゃいました。日本の組織構造や意思決定に関してはかなり勉強してらっしゃいました。

 会社の「タイトル(地位です)」のみを見て仕事をする方が非常に多い中、彼はタイトルのみならず、相手方のお人柄や受けた好意(恩)をとても大事にしてらっしゃいました。彼は誠意に溢れ、いつも感謝の御心を忘れることはありませんでした。(私自身、5年も前に彼の会社に対し融通を利かせたことを、つい最近まで「あの時は本当に助かった。ありがとう。」と言われ何度恐縮したことか。)

 部下に対しても、フレンドリーで、絶対に高圧的な態度は取りません。彼はアルバイトの人からもニックネームで呼ばれるほど慕われ、会社の中ではリーダー、お父さん、お兄さん、学者さん、専門家と様々な顔でみんなに接していました。

 彼は、せっかく日本に住んでいるのだからと、日本の文化や歴史を熱心に勉強していました。ひょっとすると私たちより日本に詳しかったかもしれません。ご家族で頻繁に神社や寺院を訪れていたのが印象的です。

 少なくとも、彼の会社と彼を取り巻く人間の間では、間違いなく彼自身が故郷と日本の屈強な架け橋になっていたと思います。

 ご自分の健康が芳しくなくとも、決して弱音を吐かず、最後までお仕事を全うしようと日本に留まり続けた友。その友が築いてくれた橋は、今後彼の部下たちがちゃんと引き継いでくれると思います。告別式では彼は故郷の正装で棺に横たわっておりました。私たち参列者は彼と最後の対面をすることができ、お別れのあいさつ代わりに、生前彼が好きだった花を棺に散りばめました。遠い国から来た友人の魂は彼が生まれ育った地に帰り、私たちを見守ってくださるのでしょう。尊敬する友よ。安らかにお眠りください。

 合掌。